甘やかすことは優しさではない
前塾でのお話です。
ある障がいを持った中学生のお子さんが入塾することになりました。
その時お母様が最初に言われた言葉がとても印象的でした。
『先生、うちの子は障がいを持っていますが、他の子と同じように厳しく接してください。特別扱いはいりません。』と。
そのお母様は受験などよりも、その先の長い人生で受験とは比較にならないくらいの荒波が待っていて、その子がその荒波を乗り切るためには、蝶よ花よと育てる優しさよりも、厳しさこそが本当の優しさであることを知っていたのでしょう。
結論から申し上げますと、その子は最終的に岡崎高校に合格、その後名古屋大学に進学しました。
とてもしっかりしたお子さんで、出された課題もしっかりとこなしていましたし、もしもできなかったときは必ず『わたしの言い訳なんですが・・・』と切り出していました。
そして対照的に、とても過保護なお母様もいらっしゃいました。
これについてはあまりいい話ではありませんので、詳細は割愛させていただきます。
ただ、多くの保護者様がご存知の通り、昨今は大変に厳しい冬の時代です。
ましてこれから先、国が豊かになるのかと言えばその保証は全くなく、むしろ福利厚生も厳しくなり、職業であったりお給料であったりと今以上に制限を受けることになるでしょう。
言うまでもありませんが、その大変さは受験の比ではありません。
受験はお父様お母様をはじめ、周りの大人に保護された環境で頑張ればいいだけのはなしですし、変な話、失敗したところで命が取られるわけではありません。
社会の在り方にも問題があると思いますが、とにもかくにもお子さんは、理不尽な社会の荒波に立ち向かっていく力を身につけ、心身ともに豊かな生活を送れるように成長していかなければならないでしょう。
【隻腕の投手、ジム・アボット】
どれだけ野球好きなんだと思われそうですが、とある野球選手を例に挙げさせていただきます。
生まれながらにして片腕がなかった投手、ジム・アボット選手です(ちなみにもう引退しています)。
ちなみにこの方、あの名門ニューヨークヤンキースでノーヒットノーランを達成し、サイ・ヤング賞も受賞しているものすごい投手なんです。
野球部だった山口には分かりますが、片腕が使えない状態で野球をやるというのはとんでもないことですし、ましてやプロの世界でこれだけの成績を残すというのはにわかには信じられない話です。
しかしもちろん、片腕がないというのはとてつもなく大きなハンディキャップです。
そんなアボット投手、小学生の頃に相手チームの全員がバントをしてきて、意図的に自分のところにボールを転がされたのだそうです。
しかしその時、アボット少年は泣き言や恨み節は一言もこぼさず、『自分の弱点に気づかせてくれてありがとう。』と感謝をしたのだそうです(このくだりはテレビで観たので、もしかしたらYouTubeなどに載っているかもしれません)。
山口だったら泣いてしまっているか、相手チームに愚痴をこぼしてしまいますね。
でも、そんなことは何のプラスにもなりません。
困難にぶつかった時にネガティブな感情を持ったり、周りのせいにしたところで、問題の解決につながっていくことは絶対にないからです。
何かができないときというのは、ほとんどの場合が自分自身に原因があるのです。
少なくともそう思う心を持っていないと、現状を改善していこうという気持ちを養うことは難しいでしょう。
しかしながら、もちろんお子さんが勝手にそういう風に育っていくわけではありません。
いいことも悪いことも、やはり周りの環境に大きな影響を受けるものです
このアボット投手の場合はお父様の影響が大きかったようです。
『自分が障がい者だとは思ったことはない。子供の時自分に野球を教えようとして庭に連れ出した父こそ勇気のある人間だ。』
もしもこの時、『障がい者だから』という理由で困難を避けるような育てられ方をしていたら、もちろん今のアボット投手はいなかったわけです。
人生はとてもとても長いです。
塾の人間である私がこんなことを言うのもおかしな話ですが、その長い人生において、受験など束の間で、その後に独り立ちをして家庭を築き、守っていくことを考えるとそんなに大した問題ではありません。
塾生の受験の合否にこだわるのは(塾なので)当然としても、その後大学に進んで社会という大海に漕ぎ出していけるような若者の育成にほんの少しでも携われるのであれば、私たちとしましてもこれに勝る幸せはありません。